すれちがい

体中に煙草のにおいが染み付いている。
頭痛のしてきそうなほどの濃厚な紫煙と、たっぷり髪の一本一本にまで染みこんでしまった香り。
最近はめっきり吸わなくなったからな、と乾いて張り付いた喉の痛みに堪えながら、首だけを動かして何とか天井を見上げる。
傍らのサイドテーブルにあふれそうなほど盛り上がったアッシュトレイと、いくつも握りつぶされて床に転がったブラックを基調にゴールドの縁取りの入った紙箱は、戸棚の奥にしまっていたブラックロシアン。
いつか貰ってそのままにしていたカートンごと引っ張り出してきたらしい。床に転がる死骸のようなケースの残骸に、高いのだがらむやみやたらにあけないでほしいとは思ったものの、体はあまりにもだるく、腕が鉛のように重い。
結局シーツの海から起き上がることも出来ずに諦めて力を抜く。体中が痛みに悲鳴を上げていて、もはや何処が痛いのかもよく分らなくなっていた。

「…たばこ…」

お前まだ未成年だろ、とつぶやこうとした喉は、すっかり水分を失って張り付き、情けなくかすれた声しか絞り出せない。微かな振動ですら激痛となって喉を焼き、発作のように吸い込んだ煙で盛大に咽た。
音に気づいたのか、ベッドの端に座って機械的に紫煙を肺へと吸い込んでいた横顔が振り返る。

「…ああ、起きたんだ。欲しいの?」

違う、と言うまもなくひび割れた唇へ吸い差しの黒いフィルターが突っ込まれた。大きな手のひらが唇を塞いでいるようで、上手く息も出来ず、肺が引きつるのに任せてからだへ紫煙が満ちていく。
久しぶりに吸い込んだ煙は、寝起きの頭には苦く、鼻を抜けていく香りに思考までもが曇っていくようだった。シーツの間に灰が零れ落ちるのもかまわ ずに緩く首を振ってもがき、紫煙の溶けた空気を吸い込む。ひび割れた肺ごと千切れて割れてしまいそうだ、と軽く咽ながら顔を上げる。光源の無い部屋の中 で、どこか深遠を覗き込んだような深く暗い瞳が一対、何処を見るまでも無く頭の上を通り過ぎた。
喉を押さえて咳き込むと、水を探して薄暗い視界を探る。サイドテーブルに放置されたミネラルウォーターのペットボトルを、腕を伸ばして何とか引き寄せ、むき出しの胸板へと水が幾筋も毀れていくのもかまわずに横になったまま喉の奥へと流し込んだ。
温い水は張り付いた喉を滑り落ち、ひび割れた肺を少し潤してくれる。やっと人並みに回るようになった思考を総動員して体を起こすとベッドに面した ガラス戸を押し開けた。温く湿った空気とともに部屋の中へロンドンの街の、雑多な音が洪水のようになだれ込んでくるが、狭いベッドルームに煙と共に押し込 められているよりはマシだ。
モノクロームの室内が、外の空気に晒されて急に薄っぺらい現実を帯び始める。背中で動く気配と共に、ベッドが軋んで空気が流れた。
山になったアッシュトレイの頂上に、最後の吸殻を押し付けると、両足をジーンズに突っ込んだだけのだらしない格好で部屋を出て行く。多分、シャワーでも浴びに行ったのだろう。

「damn it」

呟いた悪態も、もはや掠れて聞き取れないほど。
情けない、ともっさりとした大きな背中に向かって誰とも無く呟き、体を引きずりながらベッドの周りに散乱した衣類をかき集める。大きな手の触れた 肌は、ぞっとするほど冷たいのに、合わせた額が燃えるようだった。明るい空色をしていた瞳は、眼鏡のグラスの奥で見違えるほど暗く沈み、目の下には痛々し く隈が張り付いていた。

「…何、考えてんのか、わっかんねーよ…馬鹿…」

ドアを一枚隔てた隣からは、雨音にも似たシャワーの、タイルと肌を打つ音が規則的に響いている。このままシャワーを浴びて出て行ってくれないもの だろうか、とは思うものの、死人のような顔色をした横顔を思い浮かべると頭が痛い。車のキーくらい貸してやるべきか、それともタクシーを呼んでやるべき か。
子供でも有るまいし、とは思いつつも低く高く、のんびりとした声を上げて時を告げる深いあめ色をしたオークの柱時計。きっかり二回ベルを鳴らすと余韻を残して沈黙する。
午前二時。
猫でも横切ったのだろうか、開け放した窓から甲高いクラクションの音が立て続けに5回、鳴り響いてエンジンが遠ざかっていく。くしゃくしゃに丸 まって床に打ち捨てられたシャツを羽織れば、上から4つ目までのボタンはどこかに弾き飛ばされてしまったのか行方知れずで、小さくしたうちすると、諦めて 床から拾い上げた皺だらけのスラックスと共にみにつけた。下着はどこかベッドの下へでも入り込んでしまったのだろうか、見当たらない・・・が問題ないだろ う。今は余計なことに思考を傾ける体力すらなさそうだ。
眉を寄せながら、思い切ってベッドから体を起こすと、あちこちで不満の声を上げているようだったがうるさいと一喝して目を閉じる。ちかちかと星の瞬くように感じる目頭を軽く揉みながら素足のままフローリングを踏みしめてキッチンへと向かう。何より。
今は、・・・今はなんとか意識を保つために濃い紅茶の1杯も必要だ。
律儀に暖めたポットにリーフと新鮮な湯を注いで、透き通った丸いポッドの中で細かな茶葉が跳ね踊るのをぼんやりと見つめながら、ダイニングの椅子 へ崩れ落ちるように腰を落とす。今更になって、殴られた頬が熱を持ってうずきだしているようだった。少しはれぼったい頬へ手を当てると、唇の端でぬるりと した感触に鉄の味。ああ、切れてるのか、と冷めた意識で考えると、もはや面倒になってシャツの袖で唇をぬぐった。先ほどミネラルウォーターですすいだ口内 は、まだ昨夜の時間を引きずってぬるついているようで。透明なガラスの中で静かに踊り続けるリーフを見つめながら、ゆっくりとまわしてカップへと注ぎいれ る。
飴色をした薫り高い紅茶、少しでも煙草の香りをごまかしたくて、一滴目から淹れたそれを、ことさらゆっくり香りをなじませるように喉の奥へと流し込む。暖かな液体がゆっくりと胃の中へ落ちていくのを感じながら、つま先からやっと沈静されていくのを感じていた。
シャワーの音はまだ止まない。
何かを必死に洗い流すかのように、後から後から流れ出る音の洪水と共に、壁一枚向こうの狭いバスルームの中で一体あいつは何を考えているんだろう。ぺたんと木目のテーブルへ頬をつける。ひんやりとした無機物の感触と、まだ体に染み付いた熱い指の痕。
頬に、唇、首筋、鎖骨、胸。自分でたどるごと、いつもより乾いてささくれ立った大きくて無骨な指先を思い出して体温が一度、上がった気がした。

(…心配、すら迷惑だっていうのかよ、)

差し伸べたはずの手は、取られる事もなく。

(もう、本当に必要なくなっちまったのかよ)

かけた声も、届くことなく。

常に強くあれ、と進み続けた背中は、もはや自分の知る幼く小さなものでは決して無い。それでも、
…それでも、手を差し伸べれば戻ってきてくれる気がするなんて、きっとどうかしていたのだ。

「ほんと、どうかしてる、」

「…今更気が付いたのかい?」

ぽたり、と首筋に落ちた雫に驚いて顔を上げる。いつの間にかバスルームから出てきたのか、湿って色を濃くしたダークブロンドから滴る水滴をぞんざいに拭いながら暗い視線が見下ろしてくる。垂れた前髪に隠れて、表情はよく分らない。

「いいのかよ、体、ふらふらじゃねーかよ馬鹿、」

普段は明るく光を透かしているのに、今は森の奥の深い沼の深淵を覗き込むようだ、と背筋を駆け上がる冷たい感覚に身震いする。伸びてきた腕が、目の前に置かれたティーカップを掬い取っていく。

「水はないのかい、紅茶じゃな」

繊細な装飾のなされたカップは、昔から愛用しているものだ。頼むから壊さないでくれと思いながらたくましい喉が残った液体を嚥下していくさまを見守る。ミネラルウォーターのペットボトルはベッドルームに転がっている数本の亡骸を置いて、もはや冷蔵庫の中には残っていない。

「だから、おま」

「・・いい加減兄貴面、やめてもらえないかな」

かちゃん、とぞんざいな手つきで華奢なカップがソーサーに戻される。唇についたぬるいしずくをなめ取って、疲れた顔は辛らつな言葉を吐く。顔色の悪い頬を伝う、汗なのかしずくなのか、ぬぐおうと伸ばした手は顔に触れる前に叩き落とされ、行き場を失って指を握り締める。
余計な世話なんだ、と何も言わないまでもその瞳ははっきりと示している。

拒絶。

「…な…んだよ、ふざけんなよ、俺はただ心配して、それも迷惑だっていうのかよ!」

大人気ない、とはわかっていた。けれども一度吐き出した言葉は取り消すことなどできないのもまた、わかっていた。とめることのでき無い、狂気に満ちた凶器。
突きつけて狂喜するのは誰なのか。
散々乱暴に扱われた体は、心に不平を訴えてとどめることもできずに次から次へと言葉を吐き出す。頼む、止めてくれ、こんなことを言いたいんじゃ無いんだ、こんなことを言うために、わざわざ呼んだわけじゃ、無いんだ。

「ああ、迷惑だよ?」

ふつり、と。
開いた唇が凍りついた。いっそ穏やかとも言えるほどの口調は、氷のように冷たく。テーブルの上へと放置されたままの眼鏡をいつの間にか取り上げた のか、薄いレンズごしにひんやりと冷えた瞳は、突き刺す視線を投げていた。迷惑なんだよ。と、もう一度有無を言わさぬ口調で吐き捨てられる。伸ばした腕は もう、届きそうには無かった。

「君はいつだってそうだったね。どうして俺が君から離れたか、まだわからないかな」

そういう君が、嫌いだから。

一瞬、視界が真っ赤になったような気がした。無意識に振り上げた手を、目の前の獲物に向けて振り下ろす。疲れ切ってやつれた頬を、高らかな音を立 てて自分の手のひらが張り飛ばすのを、どこか冷めた頭で追っていた。ぱん、と勢いの割りに軽い、乾いた音を立ててかけたばかりのグラスが床の上を滑ってい く。抵抗もせず、張られた頬を押さえもせず、アメリカの冷めた視線が怯えた自分の顔を見下ろしているのが頭のてっぺんあたりから伝わってきていた。
震える唇をかみ締め、叫びだしそうになる胸を押さえて煙草のにおいの染み付いた手をきつく握り締める。なれない香りをまとったそれは、自分の体ではないような、そんな気さえした。
微動だにせず、張り詰めたダイニングの空気。動いているのは時折洗いざらしの体から落ちていくしずくの、硬い床をたたく微かな音だけだ。真っ赤な顔をして、多分、泣きそうな顔をしている自分と、酷くやつれてそのくせ視線だけは鋭く冷えたアメリカと。
張り付いた喉が焼け付くようだ。と、耐え切れず顔を上げた瞬間、体が宙に浮いていた。

「…ッ、は!あ、…ぐっ…!」

ぐるりと視界が回って天井が遠ざかっていく。衝撃の後に肺から一息に空気を絞りだされて意識が遠のいた。少し遅れて背中を床に打ち付ける音と、肩 を掴んだ指が、きつく骨に食い込む痛みを認知する。後頭部だけはなんとか打ち付けずに済んだのは奇跡に近いだろう。衝撃で暗く遠のきかけた視界が戻ってき たときに、真っ先に目に入ったのは太陽のような明るい金色と、その隙間からぽたぽたと落ちてくる雨。
床に体をたたきつけられたのだと自覚したときにはもう、胸倉を掴んだ片手がシャツに残った残り4つのボタンをも弾き飛ばしているところだった。
乾いた音を立てて、小さな貝殻で出来た白いボタンが床を転がっていく。

「俺を助けるつもりだったのかな」

投げかけられる言葉は、蔑みというよりはむしろ純粋な疑問を含んでいる。
そうだ、お前を助けたかったのだと、けれどどう伝えればいい?見下ろす空色の瞳は、穏やかなくせにすべてを拒絶しているように酷く遠い。
空虚な自分をまざまざと見せ付けられ、いたたまれなくなって逃げるように視線を逸らした。

「…答えなよ、カークランド卿。」

「おまえ・・・っ」

抵抗しようにも、自分より一回りはゆうに上回る体躯にのしかかられては、少しの抵抗ではびくともしない。冷たい床が背中を凍りつかせ、ひるんでい るところをふわりと大きな片手で視界をふさがれる。柔らかな闇色に視界を侵され、喉が上ずるのはさほど時間もたっていないであろう昨日の記憶が否応にもな だれ込んでくるからだ。
どうして、

どうしてこんなことになってしまったのだろう。
こんなに遠く離れてしまった、と最後の抵抗もむなしくしわくちゃになったシャツを引き裂かれながら、悔しさに涙があふれた。







眩暈が酷かった。
ここ数日は食事もろくに喉を通らず、頭痛も酷い。
明日足を手配するから少し休んでいったらどうかと、いつもなら絶対に断るであろう誘いを受けたのも、一重に辛かったのもある。それでも断るべきだったのだ、と思い直した起きにはもう、自分の手は容赦なく彼の小柄な体を殴り倒していた。
昔は見上げるほどだった頭が、今は自分の視線の下で怯えたように震えている。
けれどもくっきりとしたアーモンド形の、翠の澄んだ瞳が映しているのは、もう過ぎ去ってしまった自分だけなのだ。まっすぐに自分を見ているくせに、亡霊でも見ているような。
ひんやりとした寝室の空気は、たちまち熱を帯びて密度を増した。
割れるような頭の痛みと、酷く気だるいからだを持て余していたくせに、目の前の獲物に喰らい付くと、もはや自分で自分のタガを戻すことなどかなわ ない。止めてくれと泣いて懇願されようが、腕の下の細い体が意識を失うまで何度も何度も殴った。蜜を吸い尽くして青ざめた顔をシーツへ埋めてからようや く、だ。

(…いったいなんでこんなこと)

そう、昨晩も自分に問うたはずなのに、今もまた、冷たいダイニングの床でイギリスは苦痛にゆがんだ顔で止めてくれと懇願している。
むき出した胸板には、幾筋も痛々しく蚯蚓腫れのような爪のあとが走り(さっき自分でつけた)、差し入れた熱をねじ込めば、かすれた悲鳴を上げて逃 れようと体をよじる(酷く熱い)。逃げられぬように、抵抗されぬように、しっかりと両手を床に縫いとめて突き挿せば、悪態をついてつま先が引きつった。
腹部は己の吐いたもので白く汚れ、疲労のたまったからだは、力ない抵抗を続けている。あきらめちゃえば良いのに。
・・・全部あきらめちゃえば楽になれるのに、何でこの人はこんなに強情なんだろうか。

「くっ、そっ・・・っ」

必死にかみ締めた唇からは、ひっきりなしに悪態がもれている。
少しはしおらしく怯えてみるとか、甘えてみるとか出来ないんだろか、とぼんやり熱に浮かされたまま唇を寄せたら、

勢い良く噛み付かれた。

「っ…、ちょっとは可愛く振舞えないわけ、」

「ふざけんなっ、死ねっ!ひゃっぺん死ねっっ」

「おあいにく様」

「いやっ、だ、ぁ…ああ、----っ…!」

逝くのはそっちじゃないんだ、と下世話なことを口ずさんで、いく度目かになる絶頂を迎えると、高く細く悲鳴を引きずって糸が切れたように抵抗が止んだ。
冷たい床と熱気のこもったダイニング。熱いのに、体の芯だけはずっと冷え切っていて寒い。震えが、止まらない。

「・・イギリス?」

薄いまぶた。閉じられた瞳へ恐る恐る手を伸ばす。

「イギリス、」

呼びかけたが返事は無かった。寒いんだ。すごく、寒いんだ。
抱き上げた体は力なく、青ざめてさらに一回り小さく見えた。しんと急に音を失った世界の中で取り残されたような孤独感が襲ってくる。
腕の中で意識を失った体を抱きしめながら、久しぶりに味わう子供のころ、まだイギリスと出会う前に世界を相手に抱いていたような心細さを思い出し て顔を伏せる。血のにじんだ唇で静かに呼吸を繰りかえす薄いそれをふさぐと、アル、とわずかな声が耳に届いた気がして分けも無く涙が一筋、落ちた。

「…だから君のこと、嫌いなんだよ」

もう大人なんだからと自分に言い聞かせながら歩いてきたのに、
だからこそ君から離れたのに。
別々になったとたん、どうしてこんなに君のことばかり考えるようになったのかわからないんだ。腕の中で意識を失ったアーサーは気づいているのだろうか、と考える。
もしわかっていて手を差し伸べているのなら、相当な馬鹿だし、
無意識の偽善だとしても、相当の食わせ物だ。
見上げた格子窓の外では勿忘草色の空が、柔らかな色をして朝をつれてこようとしている。帰らなくては、と気だるいからだを無理やり引き起こして腰を上げた。
ここは、自分の居るべき場所ではないはずだ。もう、一人で歩いていかなくてはいけない。







「…サイテーだ」
目を覚ましたのは、もう軽く昼の1時を過ぎたあたりだった。
すっかり明るくなった窓の外は、ロンドンの天気にしては珍しく晴れ模様で明るい空色を窓硝子に映しこんでいる。
ダイニングの床ではなく、ベッドで目を覚ましたところをみると、アルフレッドが運んでくれたのだろうか。…当たり前だ。これで床に転がされたままだったら、今すぐにでもマスケットを担いで乗り込む覚悟だったのだから。
とはいえ、何度も虐げられたからだは間接という間接が愉快な悲鳴を上げ続け、おまけにもともと芳しくなかった体調は最低の模様を呈していた。頭も、喉も、おまけに腰まで痛い。
誰にとも無くつぶやくとテーブルサイドに新しく封の切られていないペットボトルと、小さな紙切れが乗っているのが視界の端に入る。
体中の水分を失ったように乾ききって割れた喉を潤すためにありがたくミネラルウォーターを流し込み、折りたたまれた紙を広げる。手帳の一枚を破ったらしいそれには、アメリカらしい無骨な文字で一言だけ。

『イギリスへ 覚悟は決めておく。A.J』

「なんの覚悟だよ、」

一人で歩いていく覚悟なのか。殴り返す覚悟なのか。
サインの後に走り書きされた、もう平気、の文字に唇が震える。ろくに話も出来なかった。不安定で、でもまっすぐで。
がむしゃらに自分を拒んで手負いのまま歩き続ける背中。

「アルの・・・ばかぁ、」

何で自分がこんな傷つかなきゃいけないんだ、と思い、
泣きそうな顔で嫌いだと何度も自分に言い聞かせるように言っていたアルを思い、
手紙を抱きしめて、やっと少しだけ泣いた。

一人で歩いていかなくてはいけない。
澄んだ空はアメリカと同じ目の色をしている。



「嫌いになんてなれるわけ無いんだ」


遠い空の下、つながっている半身を思って、どちらとも無くつぶやいた。

作成:2009年6月18日
最終更新:2016年12月11日
すきだけどきらいだけどそくばくしたいけどできない。

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