月喰み

 ターレス、という青年は。
いつもどこか世の中を諦めたようなけだるげな目をして、仲間の一人もおらずに壁にもたれて周りを見ていた。そんな印象だった。
 確か歳はラディッツと変わらないと聞いたことがある。というか、そんなラディッツの友人らしく、時折聞いてもいない彼の情報が耳に入ってくることもままあった。しかしやはり彼が誰かと一緒に居るところは見たことが無く、
(友達いねぇのか?あいつ)
 と、そんなことを考えたのは覚えている。
 どうせ年頃の世の中全部を斜めにしか見れない時期なのだ、と。その時はそう簡単に考えてそれ以上考えることは止めてしまったのだけれど。
 どうも物事はそう単純ではなかったらしい、と思い知ったのはそれから何年後かの春の話だ。


「はぁ?!補助人員だと?」
 はぁ。
 と、思い切り眉を跳ね上げて声を上げた目の前で、その辞令を持ってきたフリーザ軍の兵士は、歯切れの悪い返事をする。普通の一般下級戦士であれば、遠征に呼ばれただけありがたく思えと蹴りだされるのだろうが、自分は特別なのだという自負くらいはあった。
 下級戦士でありながら幾度の激戦を潜り抜け、這いずってでも惑星に戻ってきた結果、今の自分は下級戦士の中では飛び抜けた戦闘力を身につけている。恐らく志願すれば王族直属の兵士にでもしてもらえるのであろうし、何度か声がかからなかったわけではないが、今の暮らしを変えるつもりはなかった。
 決して恵まれているとは思わないが、不幸だとも思わない。
 それに、自分の手で勝ち取った力で戦うことは最高に気持ちのいいことだったからだ。仕事を選べないと言われる下級戦士の中で、自分の率いるチームは例外的に行きたい仕事があれば、声をかけることも出来たし、またおかしいと思う仕事があれば拒否することも出来た。そんなことはほぼほぼしたことなど無かったが、嫌な予感がすれば本能に従うのもまたサイヤ人だ。
 そんなときの勘というのは、外れないというもので。
 事実、今まで片手で数えるほどだがハネた仕事先の惑星は例外なく占拠できずに遠征に行ったチームも全滅している。
 そこでいきなり降ってわいた補助人員の話である。
 兵士が言うには、遠征チームのメンバーが纏めて「事故」に巻き込まれ、怪我で行けなくなったためその複数人の穴を埋めるために戦闘力の高いバーダックに白羽の矢が立ったという事だった。
 最近はめったに単独で戦闘に出ることは無くなったため、眉を寄せたままメンバーは、と聞けば「ターレスだな」との返答。聞いたことのない名前に首をかしげていると、最近正式に軍に配属になった青年だという。もともと正規ではなく、軍で下働きのようなことをやらされていたらしい。要するに便利な使い捨ての雑用だ。
「戦闘力も大したことがないし、遠征も今更止められない、フリーザ様からの命令だしな。だからあんたが来ないならほかの奴と組ませて出すしかないが……」
 こんな急の出立で代わりの人員がそう都合よく集まるとも思えない。
 つまり、お前が見捨てたらそのガキ死ぬかもな、とそう言いたいのだろう。思い切り不機嫌に眉を寄せたまま兵士をにらみつけても、事態が好転するわけでもない。渋面を浮かべたまま、彼の持った辞令をひったくる。遠征先の星の情報と共に、モニターにはまだ幼さの抜けない一人の青年が映し出されていた。歳ならばそうラディッツと変わらなそうだが、浅黒い肌は純粋なサイヤ人ではないのかもしれない。この星では珍しくもないことだ。
 顔を見てますます眉間に皺が寄ったのは。
 まるで瓜二つにも見えるその顔のせいだ。じっとモニターの中から不満そうにこちらを見返すふてくされた眼差しは、自分と同じタイプの顔だった。サイヤ人の下級戦士なのだから仕方がないが、自分と同じ顔をしたタイプは相手がどうあれ苦手だった。誰でもそんなものだろう。
「俺ァガキのお守りと不味い酒が死ぬほど嫌いなんだよ」
 そういいながら、辞令を突き返して舌打ちをする。突き返した端末には、意思確認OKのサインが点灯していた。



 惑星ベジータには8年に一度、特別な日がある。特別は特別なのだが、どちらかと言えば忌日だ。
 その日は夜中外に出てはいけない。窓を閉め切り、息をひそめて過ぎ去るのを待つのみ。それが、満月。



 結果論から言えば。
 大したことのない遠征先だった。満月になるかならないか、丁度いいタイミングだったのだろう。満月の直前に届いた辞令は面倒な悩みの種から、ある意味解放してくれた。
 遠征に行っている間に惑星ベジータの厄介な月の周期は過ぎ去り、遠征先で特に会話があるわけでもなく、任務は完了した。ほぼ無人と言ってもいい星だ。知的生命体は無く、大型の獣が闊歩するくらいだった星ははっきり言って当初の予定通り自分が居なくとも制圧できたのではと思わせるものだった。
 チーム行動であれば任務が終わった後に無駄口の一つも叩くだろうし、酒を持ち込んで仕事終わりをささやかに祝うかもしれない。けれど今は端末を片手に調査に向かったターレス(意外と真面目なのかもしれない)をポッドに凭れてぼんやりと待つだけだ。時間を潰す術もなく、唯一持ち込んでいたといい嗜好品のシガレットをシートの隙間からひっぱりだして火をつける。尻の間にしかれたそれはくしゃくしゃにつぶれていたが、まあ味に大差は無い。
 シガレットを吸うのは遠征に来た時だけだ。家では吸わないし(ラディッツが嫌な顔をする)酒場でも吸うことは少なくなった(酒がまずくなるからだ)だのに、遠征先、こうして時間を潰すことが苦手な時分は時折思い出したように紫煙をくゆらせる。特別旨いとも不味いとも思わなくなってしまったが、まあただ何もせずにぼうっと突っ立っているよりはましだ。
 調査くらい一緒に行くかと声をかけたのだが、もともとあんたの仕事じゃないだろと一蹴されてしまった。仕事に出る際に、俺はガキが嫌いだからぎゃんぎゃん吠えたら叩き返すと凄んだのが引きずっているのか。遠征中ずっと必要なこと以外ターレスは口を割ろうとはしなかった。悪いことをしたかもしれないが、まあ静かなのは良い。
 どうせ今だけの付き合いだ。惑星に還ればまたお互いチームも違うし会う事もなくなるだろう、と言うことで悪びれるわけでもなくこうししてただ待っている。
 この星は恒星を持たないらしく、絶妙な角度でいくつも並んだ惑星からの光で何とか生物が生きて行かれるだけの光源と熱源を確保していた。つまりは月がいくつもあり、連鎖的に遠くの恒星からのエネルギーをバケツリレー的に順繰りに届けている形だ。こんなささやかな光でどうしてあんなに、と思うほどの大きさの獣が闊歩していたことはさて置き、その月の光が育んできたらしい地中の鉱石がフリーザの目に止まったようだ。
一体どこからそんな情報を聞きつけてくるのか、仕事を貰えるのは良いが時々彼(なのだろうか、あの妙な白い生き物は)が不気味に思えることは多々ある。
「お、帰ってきやがったな」
 四本目のシガレットに火をつけるかどうか迷っているうちに、月の光に淡く影を作ったターレスが、ふわふわと戻ってくるのが見えた。手には端末。調査を無事に終えたのだろう。ポッドに端末を繋ぐと、そのまま調査記録を惑星に送信している。
これでOKの返信が来れば、こんな場所からはさっさとおさらば出来るというものだ。
「報告した。これで返事が来れば帰れるよ」
「おう」
 そんな、短いやり取り。
 結局四本目に火をつけ、ポットに凭れて空を見上げる。青白い月やら赤い月、三番目に見えるのは黄色、だろうか。遠くへ行くほどうすぼんやりと霞む惑星と、どこにあるとも知れない恒星の関係は、昔どこかで見たお伽噺のようではないか。と、そんなこっぱずかしいことを考えて一人眉を寄せる。
「ん、」
 独りそんな気持ちを誤魔化すように、平たくつぶれたシガレットケースを黙って横に差し出すと、ポットから顔を出したターレスは一瞬驚いたように目を見開いたようだった。任務中もほとんど会話らしい会話があったわけではない相手から、いきなり好意を向けられて驚いたのだろう。少し迷ってから、一本のシガレットが抜き出される。指の中で揉みつぶされた煙草がぱらぱらと粉になって風に散り消えた。
「……あんた、吸うのか煙草とか」
 火をつけて恐る恐るシガレットを運ぶ様を見て、彼が喫煙者などではなかったことを知るがもう遅い。一口煙を吸ったターレスは、露骨に眉をひそめて咳き込むのを耐えている。そんな横顔に年相応の影を見つけて驚き、そういやラディッツと同い年だったかと思い返して顔を上げた。
「まあ、たまにな。おい、無理して背伸びするもんじゃねえぞ。吸えないならほら」
 そいつをよこせ、の意味で差し出した手はしかし、強がりの啖呵に突きかえされる。別に喫えないわけじゃないと思い切りフィルタに吸いついたターレスは、直に肺に煙が入ったのだろう。むせこんでシガレットを取り落す。自分から差し出したので奪い返すわけにもいかずに、落ちた燃え滓を持ち歩き用の灰皿でもみ消した。
「ばぁか、喫い方もわかってないガキが強がるんじゃねぇよ」
 煙を肺まで吸い込む馬鹿がどこに居るよ、と無意識に伸ばした手で頭に触れるくしゃくしゃとかき乱すように撫でれば、彼は一瞬体をひきつらせてその手から逃げた。その目が、どうも怯えていたように見えて首をかしげる。
 確かに最初にガキは嫌いだと突っぱねたのは自分だが、そんなビクビクされるようなことをした覚えはない。自分でも体を引いたことに驚いたのか、ターレスは居心地が悪そうに煙の臭いのしみ込んだ唇を擦ると、水を探してくると一言つぶやいてどこかへ行ってしまった。
「そんなおっかねぇ顔してっか」
 同じタイプだろうが。と思い、同じタイプが嫌いだと彼の写真を見た時に舌打ちをした自分を思い出してそうかと苦笑する。要するに、どちらも同じだったということだ。そりゃ、歳を喰えば自分もこうなる、なんて現実を見せられて心穏やかな方がどうかしている。
「ま、若いってこったな」
 どうにも楽しくなって、空に向かって煙を吐く。紫煙は、ゆっくりと細く棚引きながら月の間に溶けて消えた。
 そうして、何事もなく平和に遠征は終わった。


 ……筈だったのだが。



 帰還のためにお互いポッドに乗り込み、発着場へ落ちた後。さっさとポッドを降りて帰還報告をしに行こうとしたバーダックを待っていたのは、開かないもう一つのポッドと些細なトラブルだった。
「おい、どうした。あかねぇのか」
 ターレス、早く開けくれ。
 と、背後でポッドの扉をたたき続けている兵士に怪訝な顔をして振り向くと、彼は困ったようにうなずいた。
「様子がおかしいんだ。バイタルサインは正常なんだが……、さっきから開かない」
 窓を覗き込むと、眉を寄せたまま丸くなったターレスの姿が見える。寝ているわけでもなさそうだと窓をたたいて名前を呼ぶと、薄く開いた目がこちらを見て驚いたように見開かれるのが見えた。何驚いてやがる、と声が聞こえていないのを承知で呟くと、ポッドの強制解放ボタンに手をかける。
「いつまでもぐずぐずしてたって仕方ねぇだろうが、引きずってでも報告に連れてくからどいてろ」
 強制解放は命に係わる場合で無ければはっきり言ってルール違反だ。やめろ、とポッドの中で微かに唇がそう言ったように見えたが、二人揃わなければどうにもならない。扉の横にある強制解放レバーに手を掛けると力任せに引き上げる。バシュ、と空気が押し出される音がして一瞬ガラスが曇り、扉はあっけなく解放された。その一瞬、風と共に押し出されたわずかな芳香におや、と思う。これは、
 椅子の上で、ターレスは体を守るように丸くなっている。その気配が、どこかおかしい。
「おい、なにグズグズしてやがる。腹でもいてぇのか」
 伸ばした手を、触るなと叩き落とされて思わず漏れた舌打ちに彼の体がすくむ。一体俺が何をした。ますます不機嫌な顔になっていくのは分かっているが、はっきり言ってこれは完全にターレス側の手落ちだ。
 折角帰還したというのに、何を愚図ついているというのだろう。
「俺は後で行くから、あんた一人で先に行け。」
「そういうわけにもいかねえっつってんだよ、あ、おい。悪かったな。もういいぞ」
 自分がもめているのを遠巻きに眺めていた兵士は、その一言に後はよろしくと肩をすくめて次のポッドの準備に向かっていく。誰もが暇なわけではないのだ。無論、自分も。これから帰還報告を王と、それからフリーザ軍にして、報告書……はまあラディッツあたりに書いてもらえばいいとして。ともかく、ぼんやりしている場合でもない。
「具合悪いのか?」
 どこか青ざめて見えるその顔に首をかしげる。遠征先の星では別段具合の悪そうなそぶりを見せた様子もなかったが、と思い。無理やりポッドから引きずり出した体が熱い。驚いて声をかける間もなく、離せ!と叫んだターレスに突き飛ばされて手が緩んだ。
 不意の叫び声に周囲の視線が集まるが、こちらは突き飛ばされてよろけただけで、逆にふらついていたターレスの方が支えを失って地面に転がる。ぐったりと腰から解けた尻尾が力なく地面に垂れ落ち、その息遣いも荒いが、どうにもおかしい。
 この気配は。
「?!…お、ッ、おいてめぇやめろ離せ!何しやがる!!」
 そんな周期でもないはずだし、そもそも満月に惑星ベジータを離れていたはずだ。考えながら抱え上げた体を肩に担ぎあげる。途端に暴れだすターレス、一度首をはたくとおとなしくなった。気絶させたともいう。
「なぁ、わりぃ、やっぱ報告遅れるって連絡入れといてくれ、こいつメディカルルーム行きみてえだからよ」
「え?ああ、わかった。報告前に遅延連絡入れといてもらえば平気だから」
 おだいじになー、と間延びした返事を背中で聞きながら足を速めてメディカルルームへと急いだ。もとより、そんなことで治せるとは思ってはいなかったのだけれど。




「珍しい、今日はバーダックじゃないのか」
「おいなんだとコラ」
 開口一番ひどい言われようだが仕方がない。肩に担いだままの気絶した体を診察台に横たえると、医療スタッフは鳥のくちばしにも似た大きな口をもぐもぐさせて、それで、と力の抜けた体を見下ろした。
「無傷に見えるがね」
「まぁ、無傷だわな。気絶してるだけだよ。傷はねぇんだが、様子がおかしいんだよ。ちょっと調べてみてくれねぇか」
 様子がおかしいも何も、この鼻に付く匂いはサイヤ人だったら簡単にわかる。先ほど発着場のスタッフが何も気づかなかったのも、この医療スタッフが何も言わないのも彼らがサイヤ人で無いゆえにその匂いに気が付かないのだろう。
 あのままあの場所に放置してこなくて良かったと思った。あんな場所に置き去りにしていたら、それこそどうなっていたかわからない。
「調べるも何も……」
 何を調べるっていうのか、と唸った彼がとりあえず、じゃあ、と乗り気ではないまま採血を始める。針で突かれても起きないところを見ると、どうもうまく深いところに入ってしまったらしい。我ながら見事なものだと感心していると、血液をシャーレに移して何やら数値を図っていた医者が「バーダック」と声を上げた。
「なんかわかったか」
「なんか、といわれてもね…。どうも健康に問題は無いように見えるが、もしかして彼……ええとターレスか、発情周期に入ってるんじゃないのか?」
 やっぱりな、と声に出さずに呟いて腕を組む。
 サイヤ人の発情期は2つある衛星のうち、小さい方の一つが満ち欠けするごとに訪れる。体を巨大化させ、理性を奪うブルーツ派を発生させる大きな衛星は8年ごとにしか満ち欠けしないが、小さな月は大体60日単位で満と朔を繰り返す。その満ちた時、成人のサイヤ人は発情期を迎え、子孫を残す準備が整うというわけだ。
 まあそんなことは建前で、別にヤりたいときにヤれば子供なんかできるわけだが。
 稀に体調や妊娠により雌の場合発情のタイミングがずれたり来ない場合はあるが、雄はほぼ例外なくその周期がやってくる。つまり、月の光にさらされなければ発情期はやってこない、はずなのだ。
「おまえさんたち遠征に行ってたんじゃないのか?その間に満月はおわってるんだがね」
「まあ……そうだよなぁ」
 がりがりと頭を掻きながら気絶したままの体を見下ろす。まったく同じ行動をしているはずなのだ。月の光を浴びる余地は無い。もしやあの惑星の月が影響しているのかとも思ったが、自分も同じ行動をしているのだ。自分も発情したのならともかく、その可能性もないだろう。
「何か変なもんでも食ったのか、そいつ……」
 食料は支給されている。し、食べ物に関してもまったく同じものを食べていたはずだ。唯一違買った点と言えば、自分が持ち込んだシガレットだが、結局ターレスもそれを吸った。つまり遠征中はまったく同じものを口にしていたということで。
 と。
 そこまで考えて思い当たる。
「そいつ、水探しに行くとかなんとか」
 シガレットを吸ってむせた後、彼は確か水を探しに行くと言ったのではなかっただろうか。そうだ、丁度水が切れていて、予備が無かった。あの星の水はミネラルは多いが毒性もなく、飲んでも問題無いこととなっていたが、食料として持ち込んだ水があるうちは手を出さないでいたのだ。
「水、か」
 ふむと考え込んだ医師は、これはあくまで仮説だがとひらたい口を開く。
「確かあの星、月光源からしか生成されない光を浴びて育った鉱石の産地だとかいっていたな。水に毒性はないが、その水にも鉱石から沁みだした成分が含まれていたんじゃないかね」
「だからミネラル分が豊富だったのか。」
 やっとそれらしき回答にたどり着いて納得するのもつかの間、だとしてどうして発情するんだ、と眉を寄せたバーダックに医者が続ける。
「月の鉱石だろう?惑星ベジータの月成分と全く同じわけではないだろうが、似たような成分を含んでいたらどうだね。小さい月満月の場合、お前さんたちは巨大化の時と違って肌からそれを吸収してるんだよ。ブルーツ派は目からしか吸収されないがね。肌から吸収されるってことは、」
「……経口摂取も可能ってことか」
「まあそうなるな。」
 普通月の光を口から食べる、なんて出来ようはずもないが。出来てしまったのだ。運悪く。あの水にどれだけその成分とやらが濃縮されていたのか分からないが、そんなものを直接体の中に入れてしまったのだ。たまったものでは無いだろう。あの水に何等かの特別なミネラルやら何やらが溶け込んでいたと考えるのなら、恒星を持たないはずの星で、あれだけ巨大化した生物が生きながらえてきた理由も何となくわかる様な気がした。
「で、どうするんだ。けが人でもないならいつまでも寝かせとくわけにもいかんが」
「あー、そうだな。いい、どっか色町にでも放り込めば収まるだろ。良い顔はされねぇかもしれないけどな」
「そうしてくれると助かるね」
 まだぐったりと伸びたままの体を抱えてメディカルルームを後にする。顔見知りの花街の知り合いに頼むか、と面倒なことになってきてしまったことと、あの時彼に煙草を差し出したことを少し後悔した。




 抱えた体が酷く熱い。
 熱でもあるのかと心配するほどのそれと、依然目を覚ます気配のない体に溜息を吐いて花街へ向かうのを諦めたバーダックは、ターレスの住所を聞かなかったことを後悔してももう遅く。行き場を失って仕方なく自分の家へと向かうしかなかった。
 ラディッツが遠征中で良かったと思う。こんな発情期の匂いを振りまいた自分と同年代の(しかも友達らしい)青年を連れ込んでいるところを見られでもしたら面倒だ。正直この匂いは精神衛生上よろしくない。浴び続けていれば手を出さないで居られる自信もなかった。
 普段発情期になれば街中がこんな気配になるわけだが、それは自分も同じことなので客観的に発情期を眺める、なんてことは今まで無かったのだ。
(こんななっちまうんもんなんだな)
 と、しみじみベッドに横たわる体を眺める。目を覚ましたらすぐにでも色町に叩き出せばいい。まあ煙草を与えてしまった責任上、花代くらいはだしてやってもいいか、とそんなことを考えながら。
「……う」
 珈琲でも入れるかとまだ身に着けたままだったプロテクターを外してシャツを着る。ターレスのプロテクターは、着替えさせようかとも思ったが、下手に触って反応でもされたらたまったものでは無いから放っておいた。決して寝心地が良さそうではないが、気絶しているのだからまあ、いいだろう。
 湯を沸かして少し迷ってから二杯分注ぎいれる。飲まなければそれでいい、と思って寝室に戻ると、驚いたことにターレスは目を覚ましていた。見慣れない部屋にきょろきょろとあたりを見回していた彼は、こちらを見つけてあからさまに体を固くする。そんなに警戒しなくてもいいだろうに、とは思うが仕方がないだろう。
「おう、起きたか」
 飲むか、とベッドサイドに置いた珈琲には目もくれずに、ターレスはじっとこちらを見上げて、何を言おうか迷っているようだった。
「あの星の水に含まれてた成分が発情期を引き起こしたんだと。まあもとはと言えば、俺が撒いた種だしな、色町連れてってやるからそれでなんとか治めてこい。金はこっちが……、?!」
 がりがりと頭を掻いてあらましを簡単に説明しているうちに、伸びてきた手が腕に触れる。その手が、酷く熱くて驚いた拍子に珈琲が零れた。
「うぁっち!おい!」
 腕に散った飛沫の熱さに思わず驚いた声を上げて慌ててカップを置く、とその屈めた体に腕が伸びてしがみつかれてさらに硬直した。こいつ、何考えてやがる?
「な、ばだ…ァ」
 鼻にかかってかすれた甘い声。こんな声も出せるのかと驚く間もなくその声の意図することに気づいて眉を寄せた。あれだけ人を拒絶して、突っぱねていた男とは同一人物には思えないほどの豹変ぶりだ。発情期とはいえ、ここまで変わるものだろうかと思っていたら、彼は不服そうな顔をして「何だよ、」と言った。
 間近で見る潤んだ目は、よくよく覗き込めば黒ではなく濃い紫だ。光に透けた時に不思議な色合いになっていた髪も、同じ紫。彼の半分だか四分の一だかはわからないが、流れる血の遺伝なのだろうか。思わず誘われて伸びた首に触れれば、あ、と小さく声が上がった。
 ――猫、或いは。
 その声は何と言ったのだろう。
「花街つれてってやるっつってんだろが。なんだ、自分じゃいけねぇのか?なら担いで、」
 そんなん、どうでもいいから。と背中に食い込んだ指が爪を立てるのを感じていたが、もはや振り払う気にもなれなかった、のは。自分はあの星の水を飲んでいなかったというのに、その目から滲む気配に飲まれたのかもしれない。
 なんだよ、と意地悪く聞き返せば彼は切羽詰った顔で声を震わせる。
 もっと獰猛な、獣だ。
「相手っ、してくれよォ……!」
「どんなふうに」
 聞き返すのはもはや様式美だ。自分自身、発情期は何度も体験しているからわかっていた。足りないのだ。花街のお決まりの交尾の真似事などでは。女の腕で優しく掻き抱かれるような行為では。彼が望んでいるのは、
「あんたのソレっ、ぶちこんで、奥までメチャメチャにかき回されてぇ…っ頼むよバーダック、俺を、」
 鋭い痛みが耳に走り、ぬるりとした熱が頬に流れる。噛まれたのだ、と理解するよりも早くターレスの体をベッドに叩きつけていた。その離れる間際、彼が吹き込んだ言葉は毒だ。
 ……バーダック、俺を壊してくれ。
 そう言ったのではなかっただろうか。
「……ンのやろ、とんでもねぇな…っ!」
 嗜虐的な言葉と、発情の匂いに頭がくらくらする。ターレスの黒いうわさはぼんやりとは知っていた。曰く、上級戦士たちの玩具にされている、だの。たまに花街で働く姿を目撃されている、だの。その噂にいつも眉を寄せて心配そうにしているラディッツにはとてもではないが、この姿は見せられないな、と思う。
 男を誘う様は慣れたものだ。恐らく、噂は残念ながら真実だったのだろう。
 ならばせめて、望みどおりに。
 組み伏せた体は薄明りの下で異様なまでの色香を放っている。あのままポッドに置き去りにして いれば、匂いにつられたほかの誰かに食い荒らされていたのは明らかだ。
 その言葉にまんまと載せられた自分を認めるのも悔しくて、見下ろした体からプロテクターをはぎ取りながら呟く。
「覚悟しろよ。煽ったってことは、壊れるまでやめねぇからな」
 まるでたちの悪い二日酔いのようだ。脳髄までしみ込んだ芳香は、それから逃れようと足掻けば足掻くほど体をがんじがらめにして思考を奪う。
 嗚呼、と組み伏せたその唇が歓喜に歪んだのはバーダックには見えなかった。




 女を抱くのとはまた違う。雄同士で行われる行為は生殖の意味を持たないが、だからこそお互いに存分に快楽だけをむさぼれるというもので。
 プロテクターを剥いだ体はまだ靑さを残して、しかししなやかに伸びた四肢と熱を帯びて肌の中の血色を透かせた褐色の肌は目に毒だ。
 熱くもないのに汗ばんでいるのもすべて発情のせいなのだろう。しっとりと濡れた肌を撫でるだけで、ターレスの体は面白いように跳ね上がる。
「んぁ、あぅ」
「こりゃ発情っつうより媚薬だなまるで」
 引き締まった胸元に触れ、そのまま腹部を伝って腿へ。ただそうやって肌を撫でているだけなのに触れてもいない性器は痛いほどにそり上がって揺れている。いくら抱いてくれとは言ったものの、身体は雄だ。開放を求めてそうなるのは無理はない。
「ま、一回抜くか」
 壊してやるとは言ったものの、ここで自制を失ってしまうのもみっともない。ガキじゃあるまいしとその勃ち上がった雄に指を絡ませようとしたところで、逆に伸びてきた腕に下半身をとられて驚く。体を起こしたターレスが、四つん這いになって足の間からこちらを見上げていた。その姿は獣じみている。
「おい、俺じゃねぇよ」
 頭を押さえて遠ざけようとしたが、そのまま彼は構わず体を寄せてこちらの下脚へとあろうことか唇で触れてきた。まだアンダーに覆われた自身は萎えていたが、帰還してシャワーも浴びていない。いくらなんでもそのままと言うのは、今更ながらに気が引けた。
が。
「ん、ぁは、すげ、……匂い」
 じゅる、と唾液を含ませた舌で薄い布越しに性器を吸われてうめき声が上がる。はっきり言って、上手い。止める間もなく食いつかれ、アンダーを涎でべたべたに濡らしながらこちらを必死にむさぼる姿というのは、はっきり言って。
(クソが…)
 なんて顔をするのだろう。
 これではまるで娼婦そのものだ。糸を引く唇をあげて歪んだ笑みを浮かべたターレスと、ラディッツの顔が重なり苦い表情を浮かべてしまう。少なくとも、自分の息子はこんな顔で笑ったりなどしないだろう。もう子供ではないから無邪気にとまではいかないが、少なくとも素直に笑う。こんな、自分を喰わせるための撒き餌のような笑い方など。



「あんた、もたまってたんじゃ、ねぇの…?年の割には、随分」
 アンダーの下で張りつめ、布を持ち上げていた雄を撫でていた手は、腹部にかかってそれを引き下ろす。ぼろんと外気に晒されるように飛び出した雄を見て、彼は有ろうことが舌なめずりをした。美味しそう、とでも言いたげなその顔を見て、こいつはいったいどんな生活をしてきたのだろうと、妙に冷静になって考えてしまう。
「おい、後ろ向け後ろ。こいつで掘られてぇんだろうが」
 顔をみていられない、と思った。
 臀部を叩いてやれば、彼は大人しくそれに従う。ゆるゆるとせわしなく揺れる尻尾だけが、彼が発情期で間違いないという事実を伝えているようで幾分か気がまぎれた。なるべく何も、考えないように。ただ彼の体を静めるために。
 腰を高く掲げた臀部に触れ、ぐに、と両手で押し開く。肉の奥で息づく蕾は期待で震え、何か別の物のようにひくひくと口を開いていた。男の体も、こんな風になってしまうものなのだろうかと驚き、その考えを頭から振り払う。
 考えるな。どうせ一度きりの関係だ。
 何かの間違いでこんな事態になってしまったが、もともと事故だ。2度目などあるはずもない。唾液で濡らした指を、ゆっくりと肉襞の間へと押し込んでいく。男の経験が無いわけではなかったが、こんなにも抵抗が無いものなのかと驚くほどすんなりと指が飲み込まれ、ターレスが一際耳に付く声で鳴いた。
 雌ではないのだから決して高いわけでも甘いわけでもないその声が、妙に耳について離れない。ぞくり、と背中に張り付く震えには気づかないふりをして押し広げるようにぐにぐにと指を動かせば、褐色の指がかき乱すようにシーツを握って震えた。
「んぁっ、ァ!すげ、……っぁ、い、バーダック、の指ィ、っ」
 何か妙な薬でも決めてるんじゃないかと不安になるほどの乱れ方に眉を寄せる。指に絡みつく肉はやわらかく、そのくせ妙に吸い付くような締め付けるような。こういうのを名器っていうのか、と下衆な思考が浮かぶ頭に嫌気が差す。唾液を少し絡めただけだというのに、ぐじゅぐじゅと水音を立てはじめる体内は、どうやら自ら濡れる術を身に着けているらしい。
 もともと雄の体は、というか排泄器官でしかない腸は女の膣と違って自ら濡れるということはないが。男も行為を重ねるごとに、つまりは雌のポジションで抱かれるごとに体は変化するらしい、というのは噂で聞いたことがあった。感じて濡れるというよりも、その先の行為を予見して自分の体を守るために濡れるという方が正しいらしいが、実際体験したのは初めてだ。
 シーツを握ったまま身悶える体は、まぎれもなく男の物なのに、この体は女も持っている。妙に喉が渇く気がして唾を飲み込めば、ごくり、と頭の中で音が響いてぎょっとした。
「は、や、く……挿れてくれよ…っあんたの、それ、指じゃなくて」
  肩ごしに振り向いた顔が懇願している。
 酷く淫らな筈なその顔が、痛々しく見えてバーダックは考えるのを止めた。ターレスが何を考えているのかは分からない。だが、考えても無駄ならせめて今望むものを与えてやるくらいしか自分には出来ないだろう。ゴムが無い、とコンドームを探そうとした手を尻尾で押さえられて「そのまま挿れて」と懇願されては、もうあらがう術など無かった。
「ったく、わぁったよ、舌かむんじゃねぇ、ぞ…っ…!」
 揺れる臀部を押さえて先端を押し付ける。濡れているとはいえ、ローションも何もつけていないのだから切れるのではないかと思ったが、予想に反してターレスの体は柔軟にペニスを飲み込んでいく。これでは本当に女だ、と驚く間もなく吸い込まれるように締上げられてうめき声が上がった。
「おっ……ッく、ンだこれ、」
「あっ、あっ、あ……あーーーーーッ……!」
 腕を引いて腰を引き寄せるように背中からず、と刺し貫く。震える声を耐えていたターレスは、その一度の挿入で長く引く悲鳴を上げるとシーツに一度目の射精をした。絶頂を迎えてひきつる内壁に思わず持って行かれそうになって耐えていると、余韻に浸って呆けている顔を見て大丈夫なんだろうなと心配にもなる。
 発情期は快楽に弱くはなるが、ここまで乱れるのは見たことがない。あのヤブ医者、何か隠してるんじゃないのかと今更ながらに思うが、止めようなど無いというもので。大丈夫かと頭を軽く小突くとわずかにうなずいたのを見て、今度はゆっくりと馴らすように腰を揺すった。
 自分が若い、とはもう思っていないし。この勢いで絞られれば彼の体を収める前に自分がバテかねない。いくらなんでもそこまで醜態をさらすのだけは避けたかった。
「ンとに、薬でも、やってんじゃねぇだろうな……」
「ひっ、ぃあ、なぁ、なか、ァ」
 ゆるゆると腰を揺するたびに、彼は酩酊したような怪しい呂律で泣き声を上げる。雄を絞って泡立つ蕾に喰い締められ、気を抜けばすぐにでも射精してしまいそうだった。中にくれと強請るさまに、嗜虐心がなかったと言えば嘘になる。言葉通りめちゃくちゃに突いていれば、あるいは本当に彼は壊れていたかもしれなかった。
 が、自分も大概甘いのだろう。
 四つん這いで獣のように突いていた体をひっくり返して反転する。ぐるんと胎内を抉るようにすりあげた刺激に耐えきれなかったのか、彼は悲鳴を上げると二度目の射精をした。震える雄から精子が散り、彼の浅黒い肌の上に点々と痕を残す。その様は酷く扇情的で、これは確かに男を煽るなと納得した。達した勢いでひきつるように腸壁が蠢き、精蜜をまるで搾り取ろうというかのように奥へ奥へと蠢動する。その動きに耐えきれず、こちらも射精をしかけて腰を引くが、がっしりと両足に腰を挟まれて思わず声を上げた。
「っおい!ターレスふざけんなっ、!」
 急に止められるものでもない。腰を固定されて逃げ場もなく、低いうめき声が漏れてそのまま彼の、中へ。生理現象がコントロール出来るわけもない。震えながら幾度かその中へと種付けし、少し萎えた雄を体の中に残したまま見下ろせば、ターレスは溶けるような顔をしてこちらを見上げていた。
「……なか、出した?」
「わざとかよてめぇ」
 ゴムも付けていないのでせめて外に出してやろうとした気遣いなどまるで無視だ。ぺろりと無意識に唇を舐めるナメクジじみた舌を思わず視線で追ってしまい、また腰が重くなる。彼の両足はまだしっかりと腰を捕まえたまま離さない。
「雌、じゃないんだからガキの心配なんか無ぇ、だろ」
 だから中に出してくれよ、とその言葉を飲み込んであおむけの体がさらに強請るように揺れた。考えるなってことか、とその片足を肩にかけると腰を支えて突き入れる。
「んぁ!あ!すげ、ェ……なか、ぁっ!」
 引き締まった下腹部に触れ、自分の性器が内側から突く裏側を探り当てる。指先でその部分を押してやれば、ターレスは痙攣するように跳ねて言葉にならない意味不明の嬌声を上げた。
「ンのド淫乱。ここか?あ?裏から突いてんの、ゴリゴリいってんのわかんだろうが」
「あ!あ、わかっっ、わかりゅ、あぁ…!ひ、ゴリ、ゴ…んぁあ!」



 もはや言葉も意味をなさない。こんな乱れ方は花街の女でも見たことがない、というか。花街の女たちは職業で男の相手をするのだから、こんな理性を失った乱れ方をするわけがない。彼女たちの中には月による発情を起こさないため、施術をする者も少なくないと聞く。
 要するに、卵子を生む器官の管を閉じてしまうのだ。妊娠も出来なくなるが、再び閉じた器官を開いてやればリスクはあるが元に戻るらしい。……というのはともかく。このターレスの乱れ方は異常だった。
「何言ってんのか、わっかんねぇ、よッ!」
 喘ぐように上下する胸で、色を濃くする乳首をつねるようにつまめば、ヒ、と悲鳴を上げることも出来ず声を詰まらせてターレスの体がブリッジをするように跳ねた。締め付ける、というよりも食いちぎるように引き絞られる腸壁に、快楽よりも苦痛が込み上げる。
「う、ぐっ、」
 思わず呻いて息をひそめると、耐えきれずに透明になりつつある精蜜を腹部に散らしたターレスは、ビクビクと細かい痙攣をしながら呆けている。もしやと思って今の刺激で立ち上がっ乳首を掠めるように撫でれば、ぎゅっと胎内が締め付けてきた。
「は、こっちでイくとはな」
 これはますますもって毒だ。まさか乳首をつねっただけで射精するとは思ってもいなかったのだろう。惚けたままの体を抱いて緩く腰を揺さぶりながら胸へと唇を寄せれば、初めて彼は焦ったような顔を見せた。
「あ、ま、待っ」
「なーにが待てだ今更。壊してほしいっつったのはおめーだろうが」
 聞く耳などもたない。やっとこちらに引き戻した主導権に、調子づいて再び律動を開始する。唇を寄せた胸元に吸い付けば、舌先でぷつりと膨れた乳首が当たる。
 ささやかな果実に容赦なく歯を立て、じゅるじゅると音を立てるように吸い上げてやれば、もう悲鳴を通り越して泣き声になってしまった嬌声を上げてターレスが体をよじった。上がる息と、乱れる心拍音。
 うまく息が出来ないのか、溺れたように喘ぐ唇に指を突っ込んでこじ開けると、息をしろと吹き込むが、彼は相変わらず拙い呼吸で沈んでいくだけだ。
「おい、息しろって。ちゃんと吐け、おら」
 差し入れた指は、上手くいかない呼吸のせいで時折噛まれたが、このままでは本当に酸欠になりそうだ。背中をたたいてあやすようにしてやっても喘ぐばかりで意味をなさず。舌打ちをすると唇を合わせて口をこじ開けた。
 舌をつっこんで閉じられないように喉奥を開いてやれば、一瞬何が起きたのか分からずに目を白黒させたターレスは、唇を離した途端に咳き込んで大きく息をし。そして、
「おいっ…?!」
 びゅる、と吐精した。
「いっ、まのイくとこかよ…っ!」
 射精の勢いでひきつるように震える内壁と、まさかここでイくとは思っていなかったために無防備になっていたのが祟って、二度目の精を注ぎ込む。どぶどぶと勢いを殺せずに体の奥へと流し込まれる射精は、男であれば決して気持ちのいいものでは無いはずだが、ターレスは一瞬うっとりするように目を細めて、

 笑った、

 ような気がした。
 その表情の指すものが何か、考えあぐねているうちに、4度目の絶頂に達した体は緊張を失い腕の中へと沈んでくる。意識を失った体から萎えた自身を抜き出しながら、やっぱり煙草なんかやるんじゃなかった。と、
 そんなのはもう後の祭りだ。





「親父!もう、おきろよばか!」
「うおっ?!」
 急に体の下から引っ張り出された何かに、宙に放り出されて声が上がる。そこはしかし、反射神経の賜物といったところか、床にぶつかる前に受け身をとって見上げれば、そこには丸めたシーツを抱えて仁王立ちする長男ことラディッツの姿だ。
「親父さぁ、いくら補助要員だとはいえちゃんと報告出さなきゃだめだろ?ターレスがちゃんと出してくれたからいいけど、本当はチームはそろって報告しなきゃいけないのなんか、判ってないはずないだろうに。」
「あ……あ?、おわっ!」
 ぶつくさと文句を言いながら丸めたシーツを持っていこうとするラディッツと、その口から零れたターレス、の名前に思わず腕を伸ばしてシーツをひったくる。何するんだよ!と驚いたラディッツに頭をはたかれたが、いくらなんでも情事のあとのシーツを洗わせるわけにはいかなかったからだ。とその広げたシーツに痕跡が残っていないことに気づいて首をかしげた。綺麗なものだ。
「なんだよもー…。あとそれ、もう飲まないなら洗うから持ってきてよね、俺はオヤジのお母さんじゃないんだっつの」
 呆れたように呟きながら去っていくラディッツが差したのは枕元に置かれたままのコーヒーカップだ。すっかり冷めてしまったそれを見て、決して夢ではなかったはずの行為を思い出す。背中に触れれば、確かにターレスが付けたひっかき傷が指先に触れて、やはり夢なんかではなかったのだと思い知る。狂ったように、乱れた体。
 姿が見えないのを見る限り、目を覚ました後シャワーでも浴びて帰ったのだろう。あの後気絶した体の身づくろいを簡単に済ましてやっているうちに自分も眠り込んでしまったらしい。眠った顔は、自分を煽った人間と同じものとは思えないほど幼く見え、途端罪悪感に苦いを思いをしたものだ。
「あいつ帰ったのか」
「何、ターレス来てたの?」
 ひょいとキッチンから顔を出すラディッツに、そういえばターレスの数少ない友人だという話を思い出してますます苦い思いをする。まあなと歯切れ悪く答えると、冷めた珈琲を一息で喉の奥に流し込む。インスタントのそれはもともと美味いものでは無いが、泥のように苦くてまずい。思わず眉を寄せるとそれでも素直にキッチンで洗い物をするラディッツの元へとカップを運んだ。
「あんま飲み過ぎんなよ。珈琲。体に悪いんだぞ」
 洗い物籠の中にもう一つあるコーヒーカップを指さして云う言葉はもう、耳には届いていない。夜明けの、
(あの野郎……)
 夜明けの珈琲なんて今時どんな陳腐な本に出てくる一説だというのだ。飲むんじゃなかったと後悔するのも遅く、一人気恥ずかしい思いをしたバーダックは、ああそうだと振り向いたラディッツに足を止められた。
「ターレスから伝言。俺は絶対言わないって言ったんだけど、どうしてもって言われたからなんだからね」
「……なんだよ、良いから云えよ」
 怒らないでよ、俺じゃないからね。と前置きをした彼は、タオルで濡れた手を拭きながら言った。
「『オッサンもう歳なんだから無理するな』だって。おっ、俺じゃなくてターレスだし、ターレスが絶対そのまま伝えろって言ったんだよ?!」
 ビキ、と一瞬で手のなかで砕け散ったコーヒーカップを見て、怒るよりも先に青ざめたラディッツを見て思わず唇を噛む。あのガキ。
「今度会ったらあれじゃすまないって言っとけ!」
「ギャー!!」
 とその悲鳴の先でラディッツがどうなったかはバーダックしか知らないが。

 一度きり、の過ちがこれからどう響くのか。
 それを知るのは多分、月だけだ。

作成:2014年4月21日
最終更新:2014年4月28日
元はチラシの裏に書いた1000文字くらいの落書きでした。
清書してちゃんと仕上げるか~。せっかくならちゃんと書きなおそうって思い立って筆をとったら増えに増えてこのありさま。(元ネタはこちら)
分かりづらいけどターレスの片思いです。分かり易い?
ターレスが笑ったのはバダにキスされて嬉しかったから。こんなグチャドロのエロを書いても、リリカル。
頭の中お花畑ヤッホー。

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