晴天の涙

何か話して。

と、見上げた頭上で君がいった。どうしてかと問えば、不安になるから、という。あと少しなのはわかってるけど、不安になるから、と。
何時もうるさいほどに僕らを満たしていた空気は、バカみたいに静まり返っていて、こんな沈黙なれていたはずなのに。晴れているのに君はなんだか泣きそうな顔をしている。
「そんなに不安?」
小さく問えば、少し考えてからそうかもしれないと君は言った。
「…もしかしたらって、思うんだ」
「何が?」
「たとえば、どっちかが先に崩れて、一人で残ってしまうんじゃないかって」
ここはいたいくらいに静かなのに、僕らの外側では慌ただしく終わりの時間が近づいているようだった。
最初の終わり。
生まれてこの方、君とはずっと一緒だったのに、一度も触れ合うことはなかった。いつもいつも、届かないわずかな距離に視線だけがぶつかっていた。
最初に話したのは何時だっただろうか。
「もう何年だろう、」
不安そうにまぶたを伏せる君を見上げて小さく笑えば、怪訝そうな視線。僕らが出会って長い間に、僕は何度か顔が変わり、君も何度か新しくなった。
それでも僕らは僕らのまま、ずっとずっと一番近くて、…一番遠いところにいたのだ。
「大丈夫、一緒だよ。」
嘘でも構わない、と思った。ざわめきはだんだんと騒音に変わって僕らを取り囲む。
ぽたり、と僕の上へと小さく滴が伝い落ちた。
「…また泣いてるの」
「違うよ、違うもん、」
必死にごまかそうとするものの、不思議なことに今日は晴天だ。
ぱたた、たたん。
軽やかなリズムを奏でながら、いくつもの滴が落ちてくる。あとから、あとから。止まることの無い音楽みたいに。
「大丈夫。…大丈夫だよ」
どこかずっと遠くの方で、深く重い音が聞こえた気がする。がらんどうになった君との距離、まるで出会ったばかりの頃みたいに。
だんだんと傷ついた体、両手をせいいっぱいに広げて笑う。体の外も、なかも、きっともう限界なのは解っていた。それでも、と見上げた先で泣いている顔を見上げた。
…それでも、最後に抱き止めるのは君で良かった。
「おいで。」
低い音を立てて体が揺れる、柔らかく微笑んでやれば、安心したように君の躰が落ちてくる。まるで、スローモーションのようにゆっくりと、はやく、はやく。もどかしく感じながら、引き寄せるように君を抱き締める。
『やっと、会えたね』
どちらともなく、呟く言葉。
君に触れている。…やっと君に触れることができた。

「      」

君が笑った。

作成:2012年2月12日
最終更新:2014年4月13日
2009年頃にお題で書いた擬人化。このとき何か擬人化にえらくハマっていたような…
天井×床、でした。なんという!!!

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