日常

「おい、ちょっとまてよ!スコット!」
いつもの光景だ、とミラは溜息も隠さずに脚を組みなおした。
短いスカートから伸びる奇麗なラインが惜しげもなくさらされる。いつもなら、口笛の一つも吹いてそんな絶景に食いついてくるはずの、人懐っこい笑顔は焦った表情を隠しもせずに、もう一人の横顔を追っている。
頭に包帯を巻かれた痛々しい姿・・・の割には元気なものなのだが、デイビスは少し癖の有る濃いダークブロンドの頭を振って犬のように吼えた。
「だからっ、悪かったって言ってるだろ!」
今回の原因は何?
あきもせずに先ほどから痴話げんか(・・・にしか見えなかった、私には)を続けている2人を横目に煙草に火をつける。
医務室は禁煙だったが、自分の城だ。そんなものはどうでもいい。薄い紫煙をくゆらせれば、スコットがわずかに眉を寄せた気がしたが、ミラは見えないフリをした。
「どうぞお構いなく。」
「メディック、ここは禁煙のはずですが」
「私の場所よ?文句があるならどうぞお好きに他の場所に移ってくれて構わないわ。」
軽く手を上げてにっこりと笑えば、スコットは眉を寄せたままに溜息を吐いて、いえ、と一言。分かっている、あなたからは同じにおいがするもの、と私は吼え続けるデイビスを眺めながら肺に煙をいっぱいに吸い込んだ。
細く細く、唇から煙を吐き出す。
「・・・だーかーらー!今回は俺のミス!お前に迷惑掛けたのは悪かったし、オフのとこ呼び出したのも悪いとおもってるよ!でも一人で出来ただろ?ソロで片付いたんだ、だから、」
「だったらもうパートナーはいらないな?」
「どうしてそうなるんだよ!」
どうでもいいけど、他の病人の迷惑になるからやるなら外でやってくれないかしら。と、とうとう泣きそうな顔になってわめいているデイビスを見て溜息を吐く。
スコットの方はといえば、苦虫を噛み潰したような、いつもの3割り増しの皺を眉間に刻んで、ベッドに胡坐をかいたままのデイビスを見下ろしている。まあ、なんだ、なかなかシュールな光景だ。
ドアの向こう側かあは、いつもの見慣れた光景とはいえ彼らの同僚が数人、なんだなんだと顔を覗かせていた。
「なんだー、デイビス、まーたスコットに愛想つかされてるのかー?」
「今度こそバディ解消か?スコットもよく耐えてるほうだぜ、ちゃんと謝っとけよ、捨てられるぞ」
とかなんとか。
だはは、と下品な笑い声、これだから男は、と思いながらも2人を見れば、今にも泣き出しそうな空色の瞳が揺れている。ばかねぇ、捨てるも捨てられるも。
嵐の去った跡の、まぶしい空色だ。
「うるせえええええ!!も、お前らうるせええよ!ばーか!あっちいけ!」
勝手に医務室の備品の枕を投げているデイビスは、あとできっちり締め上げておくことにしよう。とミラは思った。
捨てるも捨てられるも、あんなことを言っておいて、デイビスを見捨てられないのはスコットの方なのに。全然分かってないのだ。スコットも、そこできゃんきゃんと吼えている子供みたいな男も。
「・・・いい子にしてるんじゃなかったのか、デイビス」
頭上から振るバリトンに、しかられた子供みたいに大きな体を小さくしてデイビスがうなだれる。だからごめんって・・・と消え入りそうな声が鳴いた。
いつものことだ。ソロで飛んだデイビスは、ベル指令の指示を無視してストームに突撃。挙句ディフューザーを二発も打ち込んで爆風に巻き込まれ機体は破損。その上着水時の衝撃で後頭部打撲、左足にヒビ。軽い脳震盪で意識混濁の上医務室に担ぎ込まれてきた。
ぐったりとベッドに横たわったデイビスを見たときは、さすがのミラももうだめかと青ざめたが、案外この男は頑丈に出来ているらしい。あっさりと目を覚ましてこの状態だ。
それよりも、騒ぎを聞きつけてここへ駆けつけてきたときのスコットの顔色を見せてやりたい、と思った。
「何が鉄面皮のキャプテンよ、ねぇ?」
「・・・何かおっしゃっただろうか、メディック」
「なぁんでもないわよ。それよりいいのその子猫ちゃん。あんまりいじめると、泣くわよその子」
と、指をさせば、うつむいたままかすかに肩を震わせていた青年が、情けなくしゃくりあげながらシーツを握り締めたところだった。しまった、とさらにスコットの渋面がゆがむ。
「・・・って、おまえっ、二週間ぶりのオフだったろ・・・っ、ライダーは丈夫だし、あれくらいだったらあそこで片付けとけば、俺一人で済んだし、だから」
「お前な、俺のオフのためにそのざまだって言いたいのか?」
「ちげーよ!これはただ単に俺の操縦の腕のせいだろ!お前は関係ない!」
だから、その枕を手当たり次第に投げるのを辞めて欲しい。
こちら側に飛んできた一つを、煙草を咥えたままよけてミラは溜息を吐く。背後でドアの扉から顔を出していたらしいデイビスの同僚が、鈍い悲鳴を上げて枕を顔面でキャッチしたようだった。
「だからバディ解消だなんていうなよ・・・!」
俺、お前が居ないとまだ上手く飛べないんだ!
(あーあ、もう勝手にして欲しいわ)
空色の、奇麗な青い青い目からぼろぼろと涙を溢れさせて枕に突っ伏したデイビスと、もう完全に硬直したままのスコット。
ドアから覗いていた同僚たちは、何事やら騒ぎながら、小銭を集めて居る。どうやら、どちらが折れるかをかけていたらしい。普段ならそんな部下に一言二言説教を垂れるスコットだが、今回のこれは完全に予想外だったようで、
なにやら考えるのか戸惑うのか、どちらともつかない微妙な表情のまま「しかし」だの「ええと」だの煮え切らない返事をしている。
賭けは、デイビスが折れる、との方向で決まったらしい。にぎやかな一団は、当の本人たちになにやら野次や、「今度お礼させてもらうぜー」だの茶々を入れながら去っていった。
完全に捨て犬の目でしょげるデイビスに、やっと固まったままのスコットが咳払いをして言葉を紡ぐ。
「・・・それで、言うことがあるんじゃないかデイビス」
この変態。
とミラは内心毒づいた。怒りを表面上見せているように思えるが、この男、完全に楽しんでいる。内心のにやつきを悟られないように必死なのだ。
「・・・ごめんなさい」
子供のような顔でデイビスが謝る。まるい、形のいい頭がしょんぼりとうなだれていつになくしおらしいのは、演技なのか何なのか。
「ごめんなさい、次はもっといい子にしてるから、だから・・・バディ解消なんてすんなよ・・・」
「・・・するわけ無いだろう。全く・・・お前を引き取ってくれるキャプテンが他に誰か居るのか?」
ぽんぽん、とスコットの手がその頭を撫でたところでタイムオーバーだ。嬉しそうに顔を上げたデイビスが、それじゃあ、といいかけたところでミラは立ち上がった。
「さあさ、お二人さん?茶番はそこまでよ、それだけ元気ならさっさと出てってちょーだい」
きゃんきゃん鳴くのも構わずに、デイビスの尻を蹴飛ばして医務室から追い出すと、騒いですまないとスコットが頭を下げてきた。この男、どこまでも食えないと肩をすくめ、そんなところもキライではないのだけれど、と煙草を片手に首を傾ける。
「お構いなく、キャプテン。面白いものを見せてもらいましたから」
賭けははずれだ。
あとでデイビスの同僚を捕まえて掛け金をせしめてやろうとミラは思った。結局、スコットが折れた。
いつものことだ。あの馬鹿な男たちはいつもデイビスが折れる、だなんて言っているけど。煙草をもみ消して灰皿の山を高くしながら次の一本に火をつける。折れるのはいつだってスコットの方。
ほんと、男なんて見る場所が見れてないのね。
多分、掛けのことでデイビスはあとで同僚に締め上げられるんだろうけど、そんなことはお構い無しだ。医務室にかくまってやったんだから、当然の報酬だろう。
「いくぞデイビス」
「・・・いてて、わかったよ・・・。あ、ミラサンキュー。お礼は今度デートでも」
「悪いけど、遠慮しておくわ。あんたがキャプテンくらいいい男になるか、ベル司令官くらいのいい女になったら考えてあげてもいいけど」
「そりゃ後者はむりだよ」
「それじゃあ悪いけど諦めて頂戴」
早くほだされちゃえばいいのに。
旗から見れば中睦まじく廊下を歩いていく2人を眺めながら、ミラは入ってくる掛け金の配当は、ベルとのみにでも行こうかとぼんやりと考えていた。

気象観測コントロールセンター。
まあ、いつもの一日だ。

作成:2009年9月12日
最終更新:2016年12月11日
某夢の海のCWCの2人にえらく萌えてしまったので・・・。
ミラ女史はオリジナルです。苦手な方居たらすみません。保険医さん。ベルはベースです。名前は勝手に捏造。

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