泥酔ダンス

――踊る、踊る。

声をかけても手を掛けても止まらずに、汗を散らして声をあげて、気が狂ったように。
「っはっ……クルー、ゼ、おい……ッ」
足を踏み鳴らして、手をとって腰を抱いて何度も何度も、
……彼は踊る。
「っ……く、は」
もう着ているとはいえないほどに着崩れた浴衣が、大きく肩からずり落ちている。それは此方も同じことで、むき出した肩に、解けかけた帯がまるで拘束具のように体の自由を奪う。見上げたクルーゼの目は、どんよりと曇って表情も定かではなかった。
その顔が、近づいて、
「いっ……っ……!」
がり、
と。酷い音を立てて肩を深く噛まれた。鋭い痛みが左肩に走って、すぐに熱が溢れる。それが血だと理解したときには、もう既に血まみれの口をしたクルーゼが、ぼんやりと。緩く閉じることなく開かれた口からは、吐息とも喘ぎともつかない声がもれ、血と混じった涎が伝っている。それが今自分の肩から溢れたものなのか、それともクルーゼ自身のものか分からないまま、痛みの無い右腕でその頬を掬った。
「確かに、続きは帰ってからって……いった、けど、なぁっ」
苦笑を隠しえずに唇についた血をぬぐってやる。それはまるで、ルージュのように薄い唇を彩って、酷くなまめかしく。
「飲めないなら飲めないって……最初から言えよ、なあ、聞こえてるのかクルーゼ?……ラウ?」
聞こえていないのか、クルーゼは腰を震わせて声を上げる。プライドの高い彼のこと、普段ならあげるわけも無い声を惜しげもなく響かせて、爪が何度も体中に傷を刻んで。
「ほん、と……気持ちいいより、痛いって、こんな……」
繋がったままの一点は確かに熱くて、溶けそうだ。離してくれないままに何度も貪られたので、もはや汗だか体液だか分からない液体にまみれて、耳をふさぎたくなる音を立て続けていたが。胸板にも背中にも、彼の引いた爪痕が無数に付けられている。深いわけではない傷だが、ところどころ蚯蚓腫れになった痕は、そう簡単には消えないだろう。
(酒くさ……)
頭上から毀れる吐息に、多聞に混ざったアルコールの気配に、ムウは少し後悔していた。







「さけ?」
「そそ、日本酒。」
花火からの帰り道、連なる屋台に立ち込めるさまざまな香ばしい香りに誘われ、ムウの手には湯気を立てるビニール袋がいくつか握られていた。食事というよりはツマミに近く、公園で開けた缶ビール一杯で中途半端に刺激された晩酌欲に耐えられなくなったらしい。
声を弾ませて彼がワインセラーから引っ張り出してきたのは、ワインボトルよりも随分大ぶりなボトルだった。分厚そうなガラス瓶には、読めない文字でラベルが書いてある。東方の酒だと、ムウの声が嬉しそうなのは中途半端に酒が入ったゆえだろうか。
「折角の浴衣だし、たまには趣向の違うのも、さ」
もしかして飲めない?と首を傾げるムウに、困ったような顔をしてクルーゼは首を振った。彼自身、別に酒に弱いというわけではなかったが、好んで飲むほど好きと言うわけでもない。それに、
「いや、アルコールが飲めないわけではないが、それは飲んだことが無い」
「アルコール度数はワインとどっこいってとこだから、大丈夫なんじゃないのか?」
ワイングラスの代わりに、分厚いガラスで出来たカップになみなみと注がれる透明な液体。ふわりと不思議に甘い香りが立ち込める。ワインのような煌びやかな華やかさは無いが、しっとりと落ち着いた香り。アルコールはたいしたことが無い、と言っていたがその濃密な気配に頭が揺れる。
「米で出来た酒だって。俺は結構好き、かなー」
ビニール袋をそのまま広げて、行儀悪く買ってきたじゃがバターを食べ崩しているムウは美味そうに酒を啜る。恐る恐る唇をつければ、常温のせいかむっとしたアルコールの匂いと甘い舌触りにクルーゼは目を細める。
「甘いな」
「だ、ろ。だと思ってこれ、ほら。こういうつまみのが合うんだよな」
串に刺さって焼いただけの魚を差し出されて、クルーゼは面食らう。ムウは器用に片手でその魚の身を齧っている。恐る恐るとそれに歯を立ててみれば、少し乾いてはいるが、草のような香りのするふわふわに柔らかい白身がほろりと崩れた。確かに甘い酒には丁度いいのかもしれない。
「ふむ……悪くないな」
良かった、と笑うムウに減ったグラスを継ぎ足される。口当たりがいいせいだろうか、次々に注がれる酒はペースも速く二人の口へと消えていった。







1升瓶が空になる頃には、もうクルーゼの言動は随分と怪しいものになっていた。途中で気づくべきだったのだろうが、同じく酒に緩んだ頭では、たいしたことは考えられなかったようだ。
ワイン1瓶くらいなら、涼しい顔をして飲み干してしまうクルーゼのこと、「まさか」という気持ちがあったのかもしれない。だがワインはフルボトルでも720mlだが日本酒は1800mlだ。そもそもの量が違う。
「おい、クルーゼ大丈夫か」
虚ろな視線はどこを見ているのか良くわからない。吐いたり寝てしまったりはないが、ぼうっとしたままテーブルに座ったままのクルーゼは明らかに酔っている、と物珍しい光景にムウは見入ってしまう。顔色一つ変わってはいなかったが、途中から口数が増えたのはわかっていた。それに、酒のせいかよく笑うことも。
「大丈夫……」
「じゃないだろうが、ほら、寝るならベッドいく。お前も飲めないならちゃんと言えよなぁ。へろへろじゃねーか」
じっとテーブルに座ったままのクルーゼの体を持ち上げて肩を支えて歩き出す。ふらふらと千鳥足に巻き込まれて上手く歩けず、まるで二人で踊ってでも居るようだ。
「ちゃんと歩けって…もう、ちゅーすんぞ、おらっ」
ぐっ、と腰を支えて寝室に入った瞬間、足をとられてよろけた。
「うわっ、あぶね、……!」
「んん、」
思わず反射的に抱えたクルーゼを庇ったせいで、頭からベッドに飛び込んでしまう。ベッドがあってよかった、と腕の中で相変らず惚けた顔をしているクルーゼを見て苦笑した。浴衣が乱れて、ほんのりと酒に染まった白い首が覗いている。しないのか、とクルーゼが言った。
「しないって、何が」
「キスもセックスも……続きは帰ってからっていっ」
声が皆まで告げる前に、クルーゼの顔を枕へと押し込んだ。何をする、とくぐもった声が不満の声を漏らすがそれどころではない。キスはともかく、(いや、ともかくでもないが)セックス、だと?
「何言ってんだよお前」
顔が熱いのはもはや酒のせいではない。手を離すと、ごろりと身体を反転させたクルーゼの、アルコールに侵食された眼が揺れていた。何、とは?と薄い唇が笑う。
「初心なのだな。男としたことは無いのか」
「あっ、在る分けないだろ!」
くす、くす、とついた腕の下で肩を震わせるクルーゼを見て、みるみる顔が紅潮する。それは、その言い草は、
「お前は在るのかよ」
乱れた浴衣を直視できずに眼をそらす。「どうだか」と彼は言った。ただ一度、弾みでしたようなキスのほかには、じゃれあいのような一方的な接触しかなかったというのに。首の後ろにキスを残すくらいが精一杯だというのに。
「……確かめてみるか?」
「はっ」
ふふ、と笑い声を立てたクルーゼの目が、しかししっかりとこちらを見上げていることに動揺する。酒に上がった体温を含んだ指が、帯を解こうとし、固く噛んだ結び目に舌打ちをすると諦めて手を離す。このときばかりは、あの気の遠くなるような結び目に感謝をした。が、
「ちょっ、や、やめろって!」
身体を起こしたクルーゼの手が、浴衣をずり下げるように手を差し入れてくる。裾のあわせをはだけて腰に乗り上げ、がっちりと腰を固められては逃げ場も無く。女なら何とかなったかもしれないが、生憎体格差がさほど在るわけでもない。
アルコールに溶けた笑みが、まるで悪魔の浮かべたもののように見えた。
「ラウさん?え、えーと、本気で、」
わずかに青ざめて引きつった笑みを浮かべるも、クルーゼは何も言わずに笑っただけだった。その顔が、近づいて唇に、吐息が触れる。そして唇が、舌、が。
「んんっ……!」
強引に唇を割って入り込んだ舌が、追いかけてきてからめとる。じゅる、と音を立てて唾液が溢れ、顎を伝って胸元へと垂れた。酒を飲まされているのかと錯覚するほどの、酷い酒の匂いだ。酔いまでも移されるような、そんな。
「消えてしまうぞ」
「な、にが」
「呪いをかけるのだろう、私に」
一気にあおられて重くなった腰に動けずに居ると、手をとったクルーゼの唇がその手首へと触れた。皮膚の薄い内側へ、血管の脈を確かめるように。そして軽く歯が立てられる。痕、とその唇が言った。どうか、どうか、消えない痕を呪いを、
「ラ、ウ」
薄い浴衣越しに擦り付けられる腰に、喉が鳴る。ごり、と露骨に熱を持った体同士が触れて喉を鳴らした。もどかしく裾を払えば、白い足が根元まで惜しげもなく晒される。本当に、とかすれた声で搾り出すも、クルーゼはただその足を指先で。たどって、たどって、奥の上まで。
「ふ、ふふ」
見せ付けるように下着を取り払う仕草からも眼が離せない。眼を、逸らしたいのに逸らせない。それこそ本当に、呪いのように。肉の薄い臀部の下へと性器を敷かれて、うめき声を上げた。冷たいような、熱いような肌に直接触れる、興奮と倒錯と。花火の残り火のような色で燃える、クルーゼの目と、声と体温と、
「本当に」
伸ばした手で頬に触れる、その前に浮いた腰が、尻の下で震えていた雄をすりつけ、背中がしなる。ぺち、と肌に触れ合う音を聞いて体温が一気に上がった。慣れている、と思うよりも先にクルーゼの表情に思考を乱される。その押し殺すような声と、かすれた吐息も、酒のせいにして全部全部、踊るように跳ねる身体を。
「ぅあ……!」
後ろに回された手は、熱を持って脈打つ性器を捕まえて導く。その先へ。
「ま!まてって!いくらなんでもそんな、」
慣らしもせずに。
そう叫ぶ口に押し付けられた唇に、声さえも喰われる。間近にぶつかる視線の、その眼の中で碧の火花が燃えて散った。一瞬で燃え尽きる熱の、その解けた坩堝に飲まれ、溺れる。
「あ!っ……クルー、ゼ……!」
「ふ、ァ」
めり、と音が鳴ったかどうかは分からないが、乾いた肌が引き込まれて気持ちよさよりも先に痛みに声が上がる。それはクルーゼも同じだったらしく、形のいい眉がきゅっと切なげに寄せられ、唇が引きしまる。声を殺し、それでも痛みを意識から追いやり、飲み込むように腰が落ちて。落ちて、奥のおくまで。
こんな形で、彼を抱くことになるとは思わなかったと思う。それは後悔かもしれない。
「ほら、大丈夫だろう」
全然大丈夫じゃない、とひりつく熱と痛みと、それに圧倒的な快楽に飲まれたムウは奥歯をかみ締める。ぎりり、と鳴った音はクルーゼには聞こえたのか否か。彼は構わずその腰をくねらせた。ダンスホールで一人、踊るように。
気持ちよくないかと聞かれれば、気持ち良いに決まっている。が、
「ムウ、…っ……」
浴衣のはだけた胸元に立てられた指が、じりじりと引かれて胸元に引きつった赤い線が残った。痛みと、痕と。
「くそっ!」
次々に身体へ残される爪痕と痛みに舌打ちをして、体の上で踊るままだった腰を捕まえ、ベッドの上で反転する。繋がったままの部分がねじれて、一瞬クルーゼから悲鳴が上がった。
「へ、ぇ、感じてるはしっかり……かんじてんの、お前」
とろりと溶けた表情は、境目が曖昧で、掴んだ腰を揺さぶれば「うう」とも「ああ」ともつかない声を上げて、また指、が。背中に回された指が肩甲骨の辺りに食い込んで、引き裂かれる。
「いっ、て!お前、なぁっ、さっきからガリガリガリガリと!」
猫か!と叫んだままに腰をねじ込む。表面は冷たいくせに、ナカ、あっついんだなぁ、などと思いながらえぐった最奥。まるで生き物のように震えた体内に、意識までをももっていかれそうになる。あ、ゴム、と思うよりも先に、腰をがっちりと足でつかまれ、身体を離す間も無くその体の中へと射精した。
明らかに、クルーゼは男の前での振舞い方を心得ている。が、その相手が誰かは考えないことにした。問いただすことも。
「ふ、はは、間に合わなかったなムウ」
それでも彼は、普段出さないような声で笑うものだから、怒ることも出来ずに。
「お前、なぁっ」
腰の帯でかろうじてくっついている、と言った風体の浴衣を邪魔そうに払ったクルーゼは、またごろりと反転して腰の上へと乗り上げた。その繋がりが、水音をたてて喰われている。
「お前が死んでも、私が生きるというなら、…お前の死体を食うさ。……腐る前に、全部。骨も、髪も」
眼は美味いのかな、とつぶやく様は真剣で、瞼のすぐ上に爪を立てられて思わず眼を閉じる。
「えぐるかと思ったか?」
「お前、冗談に、聞こえないんだよ……」
く、く、と毀れる声に目を開けば、腰の上で笑うクルーゼが居る。
「永遠に生きるか、短く散るなら、お前はどっちがいい」
精蜜で濡れた腰をなで上げる様は、まるで男娼だ。色の薄い腰がくねって、ダンスをするように身体が跳ねる。キス、ああキスしたい。
「ラウ、キス……」
とった指先に唇を押し当てて懇願すれば、いいだろうと笑った顔が近づいて、今度は柔らかなキスが落ちてくる。これではどちらが抱かれているのか、抱いているのか分かったものではない。が、
「いっ……!」
がり、とその柔らかな感触はすぐに痛みに変わり、鉄の味が口内に広がった。噛まれた、このやろう、と馬乗りになったからだをしたから突き上げる。あ!と高い悲鳴、かみ殺せなかったのか、わずかに悔しそうな表情へとクルーゼのそれが歪む。ざまあみろ、とムウは吐き捨てた。
「私は、永遠に生きるなど、ごめんだ」
どろどろに解けた身体が混ざり合う。溶け合う、触れたところからぐずぐずとめり込んで。このまま喰われて一つに混ざったら、呪いをかけたラウは一人で生きなくて済むだろうか、と。
どこか夢のような熱に浮かされて、遠のく意識の中で手を伸ばした。






体中がバラバラになるような痛みだ。
「う……」
呻いたまま目を覚ませば、奇麗に整えられたベッドに、きちんとノリの利いたパジャマを身に着けている。目が覚めたのはかすかなコーヒーの匂いのせいだった。
「お、目ぇさめたか酔っ払い」
霞がかかったような意識の中に入り込んだ声に、さすような痛みが走った。頭が割れそうだ。おまけに石でも飲み込んだように胃が重い。コーヒーの匂いにすら、吐き戻しそうになってクルーゼは枕に突っ伏しした。
「頭が痛い……われそうだ」
「当たり前だ馬鹿、お前昨日のこと覚えてないのか?」
昨日、と言われて枕に埋まったまま考えるが、どうも霞がかかったように思考がまとまらない。花火を見に行って、帰ってきて晩酌をしていたところまでは記憶に在るのだが、その先からが奇麗に記憶から抜け落ちたように思い出せなかった。ゆっくりと首を横に振る。
「ったく……日本酒がダメならダメって言えよ、お前顔色変えずに飲むから酔ってるんだかなんだかわかんないんだって」
ほら、みず。
差し出されたペットボトルを受け取り、口を付けてみるものの、上手く飲み込めない。水ですら、今の荒れ果てた胃には酷い刺激になるようだ。眉を寄せて数口だけ何とか飲み込み、力なくベッドへと伏せこむ。顔を上げれば、ムウの呆れたような視線と、苦笑。その手が氷枕をあてがう。
「今日は休みだろ、ゆっくりしてろよ」
白いシャツを着た、その背中に包帯のシルエットが透けて見えた。ムウ、と声をかければ振り向く。良く見ればその頬にも、首にも、薄い色の傷が無数に残っているようで。
「何だ、お前、怪我してるのか?」
袖から覗いた手首にも、ガーゼがテープで止めてある。痛みを堪えて眉を寄せ、上半身を起こすとムウは寝てろよとそっけなく呟いた。その頬が、赤い。
「まさかとは思うが」
私がつけたのか、と。
その声に今度こそムウの耳は傍目にも分かるほど真っ赤に染まった。
「分かった、まってくれ……思い出すから」
「いい、いい!思い出さなくて!大人しく寝てろって!」
つかつかと近づいてきたムウに、頭をベッドへと押し戻される。鈍い痛みに呻いて眉を寄せれば、慌てたようにごめんと手を離された。その覗く首筋に宛てられた包帯とガーゼ、わずかに血が、滲んでいる。
「……噛み付きでもしたのか、私は」
痛みとダルさにくぐもった声を上げると、顔を赤くしたままのムウはなんでもねぇよと吐き捨てる。が、掴んだその手を振りほどこうとはしなかった。
「お前、酔うといつもああなの」
「ああ、とは?」
覚えてないならいいけど、と諦めた口調。おそらく、酷い醜態を晒したのだろうということはうかがい知れた。ムウの傷と、痛むからだ。……特に、腰が。
「悪い、覚えていないんだが、私は……その、大丈夫か、腰は。無理にしたのでは」
男の経験などなさそうなムウのことである。良く動けるものだと視線を上げれば、顔を赤くしたまま口をぱくぱくとさせて、まるで酸欠の金魚か何かのように。
「後始末とか、大変だったのではな」
「ちっ、違う!違う!俺が抱かれたんじゃなくて、お前に!」
「ああ、なんだ。私を抱いたのか」
「何でそんなに冷静なんだよ……!」
慣れてるんだ、と。そういう代わりに手を撫でる。自分の付けた傷を、そうすることで治癒を促すように何度も。
「気持ちよかったか、と聞くのも妙な話か。それだけ傷だらけにされているならきもちいい所の騒ぎではないな。まあ……私は相当良かったんだろうな。お前に抱かれて」
「何で」
顔をまだ、わずかに染めたまま呟くムウの顔は見ずに笑う。食べようとしたんだろう、と。その体中の傷(唇にさえ噛み付いた痕が有る)、唇で触れなかった場所が無いくらいに落とされた強烈なキス。
「食べたいくらいに可愛い、と言うだろう。……動物は、捕食の最に有る感情を抱くそうだ。食欲でもなく、肉欲でもなくただ、愛おしいと」
私はお前を食おうとしたんだな。
静かにそう呟けば、今度こそムウの真っ赤に染まった顔がそらされて、そして。
「おまえっ」
ばふ、と。
こちらを気遣ってだろうか、柔らかくその身体がシーツの上に落ちてくる。きしむ腕を上げて、たくさん傷跡を刻んだ背中を撫でてやれば、安心したように力は抜けていく。
「ああ、なんだ。本当に食べてしまえばよかった」
「やだよ、俺は……」
髪をなでながら呟けば、胸にうずもれたままのムウがもぐもぐと呟く。体中酷く痛くて、吐きそうで、頭も割れそうに痛いというのに、不思議と気分がいいのはきっと。
相手がムウだったからだろうか。
手を繋いで腰を抱いて、噛み付くようなキスをして何度も何度も、



まるで踊るように二人で。



――泥酔ダンス。

作成:2012年8月19日
最終更新:2014年4月13日
酔っ払ってベロベロになっちゃうラウがかきたかっただけ。
肉体的にはムウラウですが(ラウがそういうのスキだから、とかだったら…)精神的には優位に、ラウムウ的なアレ。

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